SIXIÈME GINZA MAGAZINE 012

Quality of Life

Interview with YASUYO KASAHARA and YASUHIRO SASAKI

2017年4月にSIXIÈME GINZAがオープンして4ヶ月が経ちました。開業時からストア全体のディレクションを務める笠原安代氏と佐々木康裕氏が考える[本物][上質][一流]とは? 日々の暮らしのこと、歳を重ねるなかで、いま想うことを聞きました。

止まらない、古くならない

シーズンごとに動向が様変わりするファッション業界での経験が長いふたりですが、その移り変わりを感じとるアンテナはどのように保っているのでしょうか。

「歳を重ねて経験が増えてくると、インプットを止めてしまいがちです。世の中は日々動いているので、気になったことがあれば足を運んで、実際に体験してみる。現状に満足してしまったり、物事はこういうものだと決めつけて、その価値観だけを語り合うような感覚に陥らないようにしています」と話すのは、オフタイムシーンを中心にディレクションを担当している佐々木康裕氏(以下、佐々木)。この姿勢がブランドや商品のセレクトにリアリティを生み出しています。

「私は知らないことがたくさんあることは幸せだと思っています。歳を重ねると人生初の体験というのが少なくなってくるのです。だからこそ、一年の終わりにはその年に初めて出会ったひとや物事を振り返って、今年は何回“はじめまして”と言えたかなと思い返し、一年の始まりにはその年の過ごし方のテーマを決めるようにしています」。ストア全体のディレクションをトータルに手がける笠原安代氏(以下、笠原)は、こう語ります。

ふたりとも常に進化し続けること、新鮮さを求め続ける姿勢が保たれているようです。周りにいるのは、言わば家族構成のように20代から70代までのさまざまな年代の友人たち。そんな交遊関係からもひとつの考え方や感性に固執しない自由さが感じられます。

 

ちなみに、いま熱中していることや、最近心動かされたことを聞いてみました。

「私は常に“美しさってなんだろう”と考えていて、美しいものに出会うと心が震えます。先日もジョージア・オキーフ展をどうしても観たくて、3泊5日でニューヨークに行ってきました。彼女のことは“Quality of Life”を体現した女性としてとても尊敬しています。今回の展示を観たことで無性にニューメキシコに行きたい衝動に駆られています。見知らぬ土地へ旅をすることが好きですし、目的地に着くまでにひとりで過ごす飛行機の時間も特別です」(笠原)

「僕は“食”ですね。食べることそのものや、食材を発見したり。食べることそのものが本能ですし、コミュニケーションやシェアの過程において食べることはその極みだと思います。食を通して文化や土地を再発見することができたりね。この喜びを、何かの形で次に繋げられたらと思っています」(佐々木)

 

移りゆくこと、変わらないもの

ふたりに共通する感覚。それは、弛まぬ冒険心なのだと気づかされます。一方で、時代背景や周りの環境が変わり、歳を重ねることで仕事の仕方や大切にしていることなど、変わってきた部分もあるのでしょうか。

「30代前半までは、とにかくファッションが好きという一点でした。私にとってこの仕事は純粋に情熱を注げるものだったのです。でも歳を重ねるにつれ、自分たちの感性で選んだ商品をお買い求めいただくという職種において、エコやサステナビリティといった時代背景のなかで、改めて自分の仕事の意味を考えるようになりました。そんな折に起きた、阪神淡路大震災。そこで私が経験したことは、いまの自分の原点とも言えます。私の仕事は、主に女性のためのファッションを提案することですが、家庭を守る妻や母としての姿や、仕事に真剣に取り組む姿など、それぞれの立場でがんばり時があり、より美しくありたいと思うことがある。そんな時にそっと背中を押すことができるようなアイテムをご提案して、少しでも力になれたらいいなと思うのです。いまもファッションが好きだという気持ちは変わりませんが、加えて、ファッションを通して誰かの役に立てるような仕事をしたいと考えるようになったことは、私のなかの大きな変化だと思います」(笠原)

「僕は、量よりも質が大切だと考えるようになったことでしょうか。洋服も食もそうですけど、時代の影響もあって以前はいろいろ試してみたし、モノもたくさん持っていました。でも、いまは多く持たなくていい。これでいいではなく、これがいいと、ひとつひとつの質をきちんと大事にしたいと思うようになりました」(佐々木)

 

新しいことを取り入れる軽やかさと、本当に必要なものだけを見極めて、削ぎ落としていくことを両立させることは容易いことではないように感じます。ふたりはその部分とどのように向き合っているのでしょうか。

「まず、新旧問わずにフラットに見るようにしています。でも自分のベーシックな部分というのは変わらない部分なので、その価値観に沿うものを感覚的に選び取っているのでしょうね。男性はどちらかと言うと、車や時計に代表されるように見比べて吟味して買いものをするひとが多いと思いますが、僕は衝動的な性質があるので、どちらかと言うと女性の感覚に近いかもしれません。前職の社長が“無駄は文化”だと言っていました。効率が優先されることも多い現代では、ややもすると無駄が無くなってしまって、結果コンサバティブで面白みのない世界になってしまうことを危ぶんでいます。たとえ効率が悪いとわかっていても、冒険やチャレンジがあって、その先に取り組み方が見えていれば、新たな価値が生まれ、そこから次の時代が切り拓かれていくのだと思うのです」(佐々木)

「私はどちらかというと直感的にいいと思うものには積極的にチャレンジするほうです。年々減ってきましたけど、後悔することもありましたよ。だから無駄が文化をつくっていると言ってもらえると、ありがとう!と言いたいです(笑)。私たちがやっていることは予定調和の真逆だと思うんですね。特にSIXIÈME GINZAはオープンスペースで壁を持たずにやっているので、誰でもお越しいただける開かれた場所であり、通り過ぎることもできる場所です。だからこそ、はっとする意外な取り合わせでお客さまに立ち止まっていただける機会をご用意できるよう、意識的に心がけています」(笠原)

 

「スタイル」と「クオリティ」

SIXIÈME GINZAのコアキーワードとなっている[本物][上質][一流]について、ふたりはどのように感じているのでしょうか。

「ストアを運営することは、“Quality of Life”を追求するためのきっかけづくりだと思っています。お客さまの時間をいただきながら、お客さまの人生がより豊かなものになり、質を高めていくための一助となること。“袖振り合うも多生の縁”と言いますが、ストアでお過ごしいただくなかで、いろいろなモノや空間がきっかけとなって、お客さまとデザイナーや、お客さま同士の出会いに繋がることを願っています」(笠原)

「僕らはいろいろな角度で質を求めています。価格が高いものや、ラグジュアリーであることが上質なのではなく、素材やコンセプト、デザインのクオリティが高いものをお客さまにシェアしたい。僕らの仕事は、スタイルをつくるのではなく、クオリティをつくることだと思っています。スタイルをつくろうとすると、つくった時点で完成されてしまうので、その瞬間から古びてしまう。でも、クオリティをつくることを心がければ、その質感や世界観をベースに考えることができます。SIXIÈME GINZAはそうありたいし、それこそが大人のためのショップの在り方だと思っています」(佐々木)

 

最後に、SIXIÈME GINZAの秋冬の3つのテーマ「Romantic Darkness」(季節の移ろいを感じながら秋の夜長を楽しむこと)、「Planet Earth」(自然との共生)、「Slow Life」(自分が心地よい過ごし方を見つけて、日々の暮らしを豊かにすること)から、ふたりの日常のなかで最もシンパシーを感じるテーマについて聞いてみました。

「私は“Romantic Darkness”です。月の満ち欠けと女性のバイオリズムは切っても切れない関係。月や星を眺めたり、空の高さを感じたりすると、宇宙と体内リズムとの親和性を感じながら丁寧に生きなくてはと思えるのです。大きな宇宙のうねりのなかで自分もその一部なんだと認識して、ニュートラルになることができるので、朝も昼も夜も空を仰ぎ見ることを習慣にしています」(笠原)

「僕の場合は“Slow Life”ですね。若い頃はビジネスに焦点を絞って仕事をすることに集中していた時代もありますが、いまは出張やプライベートでも日本を旅しては、その地域にある神社仏閣などを意識的に巡って、日本の素晴らしさをゆっくりと見つめ直す時間を大切にしています」(佐々木)

 

ふたりの感性がクロスオーバーしているところが興味深く、その根底にあるしなやかさと冒険心は同じでも、それぞれのアプローチの違いがSIXIÈME GINZAの奥ゆきとなっているのだと感じます。ふたりのセンスと遊び心が光る仕掛けを探しに、ぜひSIXIÈME GINZAへお出かけください。

 

コンサルティング・ファッション ディレクター

笠原 安代(かさはら やすよ)

大手流通、アパレル、輸入代理店企業のブランディングやバイイングサポート、ディレクション、企画立案など、コンサルティング・ファッションディレクターとして活動フィールドを広げている笠原安代氏。株式会社大丸(現・大丸松坂屋百貨店)入社。バイイングサポートのため、3年間のミラノ駐在所に勤務。その後、株式会社ワールドへ入社し、2000年よりセレクトショップ・アクアガールバイヤー就任。2005年から2015年まで同ブランドディレクターとして商品買付けの他、商品開発、店舗デザインや販促・PRなど、多岐にわたってブランドビジネス全般に深く携わる。artemis inc.代表取締役。

クリエイティブ ディレクター

佐々木 康裕(ささき やすひろ)

トゥモローランド クリエイティブディレクターとして、若者の街【渋谷エリア】へ、再度大人を呼び込むとして大人をターゲットとした渋谷本店のオープンにも携わり成功させるなど、多くの業界人から一目置かれていた佐々木康裕氏。店作りから商品開発までコンサルティングも含め仕事は多岐に渡る。2011年に独立し、株式会社ドゥーブルアッシュ設立。現在は、株式会社ビヨンドワークス代表取締役社長。